講話録

13:00 21世紀に於ける地域福祉の課題
元淑徳大学社会学部教授、現郡山女子大学講師 佐藤昭二

1 講師の幼少時の体験に基づき、終戦直後の民生委員各位の活動状況。

 講師は八人兄弟で、末弟二歳の時に父親は戦死、母親が戦後混乱期を八人の子供を抱えて苦渋の生活を余儀なくされた。

 生まれは山形の寒村で、職を求めて神奈川県横浜市に流れ着き、母は幼子を借家に残し、住み込み女中として働いて居た。

 当時既に民生委員制度は有ったが、当時の民生委員は、地元で「御前」と云われる貧民の情を露ほども知らぬ者が任命され、名誉職で貧民救護の精神とはほど遠く、窮状を訴えるにも土下座侮蔑の謗りを覚悟せねば到底申告出来る状況ではなかった。この意識が徐々に変貌し、現在の民生委員の姿に到ったのは、さして遠い昔の話ではない。

 大正六年に済世顧問制度が岡山県で発足し、昭和二年千葉県方面委員規定が公布され、次いで昭和21年10月に民生委員制度が制定された。然しそれら制度が出来る以前の救護処置は誰が担当して居たのかと云えば、其の資料は夙に乏しく、辛うじて深川警察署の資料を見る。

 それに依れば、窮民救護は警察署が担当しており、殊に年末年始お盆など巷が浮かれる時期に自殺者は急増した。警察署の巡査は、其の前后の家庭訪問を頻繁に為し、窮民救護の一切を引き受けていた。

 済世顧問制度や戦後間もない頃の民生委員が「御前」と云われる富裕階級の名誉職で有ったのに比べて、彼ら警察官は寒村の貧しい家の出身者で有ったので、身を持って窮民の悲哀を熟知し、個人的信念と相俟って住民からの尊敬を受けていた。

 その後徐々に財知の平準化が進むのと併行して、民生委員が一部富裕階級の名誉職から離れ、現在の状況に至って居る。然しながら貧しさを経験した事の無い者には、本質的に貧しい者の悲哀を理解する事は出来ない。職に就く者として先ずその事を知ることが基本である。

2 欧州福祉政策の現状

 爾来欧州は福祉の先進国とされ日本からも多くの見学者が見学に訪れていた。今でも観光の隠れ蓑に欧州に出掛ける公費研修を聞き及ぶが、既に欧州の福祉政策は崩壊し失敗例の参考にしか成らず、当の欧州諸国は日本に範を求めて居る現状である。

 スエーデンをを例に挙げれば、国土は日本とほぼ同じ、人口は東京都の1200万人よりも少ない800万人で有る。福祉に要する費用は個人収入の50%を越え、その他の国税を負担すれば、収入の殆どを税金として納めなければならない。

 この事は、国民の労働意欲を消滅させ、国家としての存在其のものを危うくし、国民は老齢者並びに障害者を施設に送り込み、快復しても自宅に引き取る事を拒否する。即ち国家の作った乳母棄て山である。

 政府は福祉政策の崩壊を危惧し自宅への引き取りを督励し、住宅改造費の低利融資等の施策を講じた。然し多くの国民は老齢者を引き取っても、適切な看護を与えず放置し、世間体を気にして外出を制限するから、座敷牢に閉じこめるに等しく、現在に於いても社会復帰とは程遠い現状である。

 他国の見学者には美辞麗句を以て接し、敢えて現状を見せることはしないから、日本の見学者は欧米の福祉政策を絶賛する。然し欧州に限らず米国でも状況は同じで、施設の長期利用を法律で制限し、引き取らなかった場合には処罰の対象とするなど強硬策を講じたりしているが、現在に於いても家族の老人に対する処遇は欧州の其れと大差ない。

 欧州に数十年遅れて老齢人口が多くなる日本は、欧米の福祉行政の失敗を具に看取し、其の方策として在宅での福祉を基幹政策とした。

 現在日本の福祉政策に要する国民負担は、例えば年収700万円4人世帯の場合を例に取ると社会保険の負担率10.9%、所得税住民税消費税7.6%である。

 この割合を見ても判るように福祉政策には10.9%の税金を使い、残る7.6%で防衛教育治安建設など国家の総ての費用を賄っている。これを見れば福祉政策が如何に莫大な金が掛かるかが頷ける。

 この事は、もしドイツで暮らすなら所得の39.6%の福祉税を負担し、更に所得税住民税消費税を負担しなければ成らない事を物語っている。そして年老いたら施設に入れられっぱなしか、あるいは運良く家族に引き取られても、社会と隔絶した生活を余儀なくされる覚悟がいる。


3 地域社会の福祉政策

  福祉は自分自身の問題で行政から与えられる事柄ではない。福祉に関心を持つ住民を啓蒙し、実際に車椅子盲目などの体験を通じて、歩道や歩道橋の状況を体験学習し、行政に具申するための実学を養成する。

歩道に放置する自転車が通行人に如何ほどの迷惑を掛けているのか?商品を道路まではみ出して展示する商行為が、通行人に如何ほどの迷惑を掛けているのか?敷地一杯に置かれた商品を、客が路上で買う行為は、通行人に如何ほどの迷惑を掛けているのか?街の中を見回せば、知るや知らずや他人様に迷惑を掛けている行為はとても多い。

4 成年後見制度

 判断能力が不十分な者(痴呆性高齢者・知的障害者・精神障害者)を保護する制度であって、高齢社会への対応及び障害者福祉の充実の必要性を背景とする。

 現行民法の改正に拘わる検討の経緯は、平成7年7月に法務省民事局内で検討開始。 平成9年10月に法制審議会審議開始。平成10年4月に要綱思案の公表し関係各界に対し意見具申。平成11年に要綱の答申を通常国会に提出予定。

所得に対する社会福祉税負担の割合
ドイツ  39.6%
フランス 33.0%
イギリス 32.7%
アメリカ 22.7%
日本   10.9%

 


福祉概論

 日本国という、運命共同体の中にあって、国体の維持と国民の相互扶助は重要な二本の柱である。ここでは、筆者が民政児童委員を拝命する立場から、国民の相互扶助に付いて書かして貰おうと思う。

 日本国民、一億二千万人の構成は大まかに胃って、「地域」「性別」「年齢」「健康の優劣」「学識の優劣」に大別される。この人々に何らの規制を加えなかったらどうなるか?答は簡単で、弱肉強食と成ることは自明の理である。

 規制を緩やかにするか、厳しくするかは、国家経営の理念で、一例を挙げれば、アメリカ社会は、規制が少ない社会と謂われ、その結果、個人でジエット機を持つ者から、土管に住む者まで存在する社会となり、国力は長大で有るが、犯罪国家の一面を持つ。

 規制の多い社会には共産主義社会が挙げられるが、能力の多い者の頭を押さえて仕舞うので、国家としての生産性を犠牲にせざるを得ない。

 また国民一人一人の心情とすれば、能力のある者は規制が少ない国家を、能力の少ない者は又其れと異なる国家像を嘱望する。

 何れの場合も、国民の能力をどれ程まで規制するかの問題で、その大半を経済活動の規制と租税の賦課方法に依っている。簡単に謂って税金が安ければ労働意欲を増し、税金が高ければ、労働意欲を殺ぐ。労働意欲の減退を最小限に如何に有効な規制を加えるかが肝要である。

 さて如何に錬磨された規制を加えようとも、総てに益する施策は不可能で、必ず取り残される者が出る。その者達に対して行う人的援助、物的援助を総称して福祉という。

 


13-4/11
民政児童委員

 民政児童委員を拝命して今年で既に3期9年に成ろうとしている。民生児童委員は、巷間に馴染みを得た言葉ではあるが、私自身拝命するまで実の所、具体的には何も分からなかった。これから今までに見聞き体験したことを書いてみようと思う。


民政児童委員とは

 民政児童委員は、厚生大臣から委嘱を受けた法律に基ずくボランテイアの人で、無給の公務員である。行政との関係は、各市町村福祉行政の下部組織となって、行政の指示によって活動する。

 依って無給では有るが、公務員としての規制の対象内となり、秘密の厳守は基よりのこと、政治活動、宗教活動、などの思想に関わる活動、など慎まなければならない。

組織区域は

 小生の居住する市の人口は四十数万人、これを十八の地域民政児童委員協議会が分担して活動している。一組織の管轄する規模は、地域密着を前提とし、その土地土地の文化的歴史的背景によって異なり、五倍ほどの開きがある。そして一人あたりの担当戸数は概ね三百数十戸と成っている。

地区民児協内の組織

 民政児童委員は、地域の町会長の推薦を受けて、任命された者で、民生委員相互には各自対等の地位である。民政児童委員には二っの職類有って、地区民児協内の、自己の受け持ち区域のみを担当し、その区域内の総ての職務に携わる民政児童委員と、地区民児協の総ての区域を担当し、全域の児童問題のみを担当する女性児童委員ととが有る。

一般民政児童委員   総ての問題に対応する
女性児童委員     児童問題専任
 ただ組織を束ねるために、代表者を互選し、地区民児協の代表者とし、その下に各部会を設け、部長を互選し、更に市内全域の部長を集めて、部長会を組織する。

活動の要旨

 行政サービスを如何に密にしても、自ずと限度があり、行政と地域住民との間を取り持つには地域に密着した人材が必要で、情報の掘り起こしと橋渡しを主な業務とし、対象者は赤ちゃんからお年寄りまでに及ぶ。

出産費用に困窮している婦人は居ないか?
育児に悩んでいる婦人は居ないか?
子供の教育に悩んでいる婦人は居ないか?
悩みを持った幼児・児童・少年・青年・成人・老人は居ないか?
悩みを持った夫婦は居ないか?
虐待はないのか?
高齢者世帯の実態は?
独居高齢者の実態は?
 この様に書き出せば際限がないほど、実社会では悩み事が多い。

どういう人が委嘱を受けるのか

 民政児童委員の任期は三年である。重任を妨げないが三年毎に就任する。町会長は、地域ボランテイアに関心のある人。公徳心のある人。品行方正な人。時間的余裕のある人。安定した生活を営んでいる人など、町会内に居住する人材を掘り起こし、本人の同意を得て行政に推薦する。行政は有識者による審議会を経て正式に任命する。

 適任者は概ね壮年者が多いが、四〇才代て就任する者もいる。一般の民政児童委員の定年は就任時に七十才未満と定められている。女性児童委員は、教員免許所持者若しくは其れと同等以上の学識と経験を有する者との資格要件があり、定年は就任時六十才である。

福祉教育

 民政児童委員を委嘱されると、全員に対し年に数回の福祉関連教育を受講しなければならない。更に、各地区民児協から数名の参加者を募り、年に数回の福祉関連教育を受講し、受講者は、所属地区民児協に持ち帰って、地区内に於いて講習を実施する。
 その他に、地区民児協主催により、施設見学などを行う。

委員の出席する事柄
 月一回の定例会。
 年数回の全体講習会
 年数回の指導者講習会
 年一回の親睦旅行を兼ねた全体講習会
 年一回の親睦旅行を兼ねた地区民児協講習会
 月一回の部会長定例会
 年一回の部会長親睦旅行
 年数回の地区民児協主催の施設見学
 年数回の地区民児協部会の施設見学
 月一回の独居老人食事会


日々の活動

 高齢者世帯の巡視
 高齢独居世帯の安否確認
 生活困窮世帯の掌握
 児童虐待の情報収集
 青少年非行の温床巡視
 学校との連携
 交通遺児の掌握
など数え上げればきりがない。

 私の場合は、これらの事項を一週間に二回以上行い、高齢者は殊に面談を心がけていた。依って全地域を巡回すれば、殆ど毎日、これらの業務に費やさなければ成らなかった。