第4日目

 マドリットから70キロ(定かでない)程の距離をバスで古代城塞都市トレドに往く。所用時間は2時間ほど。この間に一滴の水もない細い水路が2本有るだけの広漠たる原野をバスはひた走る。盆地に差し掛かる。眼下に古い建物がちらほらと見えかくれする。

  川の畔を通る。水量は実測値を知らないので云えないが、例えば鬼怒川の上流程と云っておこう。要するに余り多くは無いと言うことだ。水の有る所に人が住む。水がなければ人は住めない、と云う事だろう。だから水の集まる盆地に人が住み着き都市を形成したのだろう。と云う事は、この地は古代から丸坊主だったと云う実証にも成る。

 都市全体が世界遺産と云う事だが、遺産の中に人は住んで居る。迷路のような路地を通る。これは敵の進入を阻む目的で作られたのだろう。日本にもこういう市街地は各所にあり、近くには千葉県佐倉市の旧市街地がそうなっていて、不意に曲がったり行き止まりの道があったりする。

 さて話をもとに戻すと、強固な面格子のはまった建物と、中庭が有って、これも外敵を防ぐ目的だろう。庭に居るときは無防備なので其れを阻止する為に中庭としている。この形式は中國には沢山ある。

 王宮もあるし教会もある。教会はこんなにも狭いところに百余も有るという。又惨たらしい磔にお目に掛かる。

 キリスト教はユダヤ教の分派で当時は新興宗教で有る。これが何故にも勢力拡大したのか?当初の教義は知らぬが、治政上有用な方途だったから政治と結びつき急速に勢力を拡大したのである。

 一神教は他を認めず排斥するから、一旦信者と成れば、自己の集団に集結する要素を持つ。磔と云う惨たらしい姿を曝すことによって、憎悪と怨みを助長させ、内面と外面相俟って集団の結束をより強固にする。そして宗教の最も重要で且つ恐ろしいことは、神の無誤謬性の下に一切の不条理をブラックボックスに封じ込めて仕舞うのである。

 一旦入信させてしまえば、為政者は神の名をかたり、信者に生殺與奪を何の罪悪感も持たせずに実行させる事が出来るのである。然しこれも思わぬ落とし穴がある。為政者が入信して仕舞うとミイラ取りがミイラに成りかねない。為政者が互いに萬欲むき出しで争う。言い訳と理屈はボンドと同じで何にでも付く。

 今度は宗教関係者にしてやられる。宗教関係者は宗教関係者で骨肉の争いをする。所詮人の先祖は猿だ!
 話は逸れるが、共産主義社会もこの一神教の手法を活用した。時の為政者は共産主義の無誤謬性を前提として、異議を唱える者は反逆者として処罰の対象とした。

 トレドから来たときとは別の路を通ってマドリッドに帰る。プラド美術館・王宮・スペイン広場・プエルタ.デルソルなどあちこち見たが、豪華絢爛・磔など、立派なものでも数を見ると印象が薄くなる。ゴア・ミレ・エルグレフ等の絵画を見た。宗教者はこれ等の絵画を飾りたて、自分たちの偉大性を顕著にする演出をした。一人でも魂を委ねる人が出来れば安いものだ!

 車窓の景。行き帰りの道のり、一滴の水もない広漠たる荒れ地。キリスト教では罰として労働を課せられた!と云うそうだが、怠けて耕作しないのではなくて、耕地として使用できない荒廃地だからだろう。

 樹木を植える習慣が無いというのか?樹木を植えて大地を慈しむ心が無いのか?日本と同じ緯度にあるのだから、太陽の恵みは同じ筈で、樹木を植えて100年辛抱すれば日本のように雨の降る肥沃な土地になるのに。アングロサクソンは狩猟民族で亜細亜の農耕民族と異なり、土地への慈愛は少ないと聞く。今の世では地球環境破壊の先達となっている。学校のグラウンドの様なカンカン照りの国土にしたのも、何れにせよ自業自得だ!

 宗教者は慈悲を説くが、この地球上に生きる諸々の生き物の爲に住み良いねぐらを与えよう(与えるのではなくて奪はない)と云う気持ちは微塵もなかった。美辞麗句の本性はこんなものなのか!

 集合住宅は多いが個人住宅は少ない。荒野にポツリポツリと散在する。その建坪は30坪前后の小住宅。市街地には駐車場が無いと見えて、路上駐車が滅茶苦茶に多い。二重駐車は当たり前。時には交差点まではみ出している。

 バスのフロントガラスに縦ヒビ割れがある。この種類のガラスは20年程前まで日本でも使われていたが、事故の時にガラスの破片が飛散してとても危険である。だから、今の日本では粉々に成るガラスが使われていて、旧式の危険なガラスは使われていない。ガイド君の話では欧州の最高級バスだと云う。欧州車の品質が窺われる一面を見た。

 サントトメ協会・大聖堂・象眼細工の工房・カステイリャーナ通り・プラド美術館・
sp041
sp041.JPG (5624 バイト)
   生命を拒否する原野

 


sp042
sp042.JPG (9388 バイト)
    たった一本の河が有れば都市が出来る

 

 

 
sp043
sp043.JPG (16571 バイト)
    教会  内部は闘争の度に改装された

 

sp044
sp044.JPG (14113 バイト)
 教会内部  宗教が混在している

 

sp045
sp045.JPG (18253 バイト)
   教会内部の幾何学模様